となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 俺は彼女を、ベッドの上に寝かせた。彼女は何も気づかずスヤスヤと眠っていた。

 コートとバッグを椅子の上にのせ、ほーっとため息をついた。


 風呂から戻ってきても、彼女はピクともせず眠ったままだ。

 俺も、ベッドに潜る。
 どうしたらいい?
 何度も女と同じベッドに寝てきたのに、この緊張はなんなんだ?

 手を出すなと言われたが、ちょっと触れるくらいいいだろう?


 俺は彼女の方に体の向きを変え、頬に掛かる髪を指でそっとかきあげた。俺が引かれた大きな目は閉じていて長いまつ毛と、やわらかな唇から時々漏れる寝息がたまらん。今夜ずっと彼女を見てきたが、やぱり可愛いと思う。

 俺は、そっと彼女を引き寄せて、抱きしめるように眠った。

 自分が、寝起きの悪い事をすっかり忘れて……



 目が覚めた時には、跡形もなく彼女は消えていた。
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