溺愛の価値、初恋の値段
土曜日の発覚
ほとんど眠れないまま朝を迎えたわたしのスマートフォンには、数件のメッセージが届いていた。

昨夜のものは、ロメオさんからのお礼のメッセージと雅からのランチのお誘い。
まずは雅に「行きたい」とスタンプを送り、今朝届いた飛鷹くんからのメッセージを見る。


『朝は、いらない』


いつもなら、飛鷹くんらしいと片付けられる素っ気ないひと言に、ズキンと胸が痛んだ。

外泊の理由を説明してほしいと要求できる立場ではないから、『わかりました』とだけ、返信する。

念のためセットしていた炊飯器が、炊き上がりを知らせる。

お腹は空いていないし、食べたいとも思わなかったけれど、ここの冷蔵庫にはゼリー飲料のストックはない。
ワカメとお豆腐のお味噌汁を作り、ロメオさん作の漬物で、どうにかお茶碗一杯のごはんを胃へ流し込む。

久しぶりにひとりで食べる朝ごはんは、なんの味もしなかった。


(味がない……)


飛鷹くんたちと暮らす中で、わずかずつでも味を感じ取れるようになって、そのことに慣れてしまっていた。

味がしないことのほうが、わたしにとって普通だったのに。


(きっと、一時的に良くなっただけだったんだよね。ぬか喜びしないようにしなきゃ……)


良くなったと思ったら、悪くなり。不安定な感覚に振り回されていた頃を思い出し、落ち込んではいけないと自分に言い聞かせた。

ぼうっとしていたら、どんどん余計なことを考えてしまう。
いつものように掃除、洗濯と午前中を家事に費やし、飛鷹くんのお昼用に野菜たっぷりのチキンスープを作った。
今朝炊いたごはんは、食べるかどうかわからなかったので、冷凍する。

ダイニングテーブルに、用意したものと出かける旨を書いたメモを置いた時、玄関のドアが開く音がした。

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