溺愛の価値、初恋の値段
月曜日の同居人
飛鷹くんのマンションで、飛鷹くんとロメオさん、わたしの三人での同居を始めた翌日。

玄関先で、パリッとしたスーツ姿で某高級腕時計を嵌めた飛鷹くんとロメオさんを見送るわたしは、「詐欺だ」と心の中で呟いた。

いまの彼らを見て、汚部屋の住人だと思う人はいないだろう。


「ごめんね、海音ちゃん。具合が悪いのに、ひとりにして。何かあったら、電話してね? いつでも、何度でもいいからね?」

「今日は、たぶん遅くまで帰らないから。何か食べたい物があれば、出前とか頼んで。店や俺たちの連絡先とか、必要なものは海音のスマホに登録しておいた」


いつの間にロックを外したんだと驚いている間に、二人は出かけてしまった。
プライバシーの侵害を訴えようにも、もう遅い。
見られて困るようなものは何も保存していないけれど……。

しん、とした汚部屋を見回し、腕まくりする。

昨日は、怠さが完全には抜けず、ほぼ丸一日寝て過ごしてしまった。
けれど、今日は熱も下がり、薬が効いているおかげで咳も止まっている。
一日中、何もせずにいるのは時間がもったいない。

何より、この状況を見過ごせない。


「まずは……片付けないと」


衣類をかき集め、一度も使われた形跡のない、最新式の洗濯乾燥機へ投入する。分別しながら、六個目のゴミ袋の口を縛り終えてひと息ついたら、もうお昼を過ぎていた。

なぜか冷蔵庫に入っていた賞味期限が切れていない菓子パンを発見し、豆乳と一緒に半分ほど食べる。

バスルームとトイレはさすがに掃除していたらしく、きれいな状態だったので、床が現れたリビングに掃除機をかける。

乾燥が終わった山のような洗濯物を畳み終えたときには、すっかり日が暮れていた。

たくさん動いたせいか身体が火照っていたので、シャワーで汗を流す。

バスルームの鏡に映るおでこの傷は思ったほど大きくはなかった。一週間もすれば、大げさな傷パッドは必要なくなるだろう。

高機能のドライヤーを借りて髪を乾かし、柔らかすぎず、絶妙な弾力具合のソファーへ横になる。

食欲はあまりないけれど、夕食に出前を頼もうかと考えながら、スマートフォンのアドレス帳をスクロールする。


(拭き掃除は、明日でいいよね。あ、食材も用意しなきゃ)


帰って来た二人が驚く様子を想像しながら、ちょっとだけ目をつぶって……まどろむだけのつもりが、どうやら本格的に寝てしまったらしい。
誰かに呼ばれて目が覚めた。


「海音」

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