キミ観察日記
 与一はレポートを書き終えると、それを男に送信してタブレットの電源を消す。

「八月も残すところ半分をきりましたね」
「光陰矢のごとしとはこのことですか」

 夏のあいだ子供の世話をするなんて考えたときは自分にその役目が果たせるか不安もあった与一だが、いざ始めてみると目まぐるしい毎日にあっという間に時間が過ぎていった。

「与一くんのおかげで、紅花さんは充実した毎日が過ごせています」
「だといいんですけど」
「あの子は。ペンギンとイルカが見たいんでしたね」

 与一は、そういえば、そんなことをレポートに書いたなと思い出す。
 もう随分と前のような気がしたが、わりと最近の話だ。

「夏休み最後の日に。水族館へ連れていってあげなさい」
「……僕がですか?」
「はい。二人で、です」
「わかりました」

 人目は気にしないのだろうか。

 その翌日には少女との別れが待っているのだろうか。

 次々と疑問は浮かんでくるが、与一は、今夜はなにも考えないことにした。

 考えたところで、どんな答えが出たところで、目の前の男の指示を覆すものなんて一つもないのだ。
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