キミ観察日記


 ◇


「ただいま、与一くん」
「……おかえりなさい」
「おやおや。くたびれていますねえ」

 帰宅した男が見たのは、リビングのソファで生きた屍のようになった少年の姿だった。

「あの子は」
「ぐっすりです」
「それはよかった」
「よくないですよ」
「なにかありましたか」

 男は、ネクタイを緩めながら与一に問いかける。

「説明するのが億劫なほどには」
「最初に伝えてありますが。一日の出来事は、まとめておいて下さいね」

 今日あったことを今日のうちに文章にして、男にデータで提出する。

 これが男から与一に課された使命のひとつだ。

 そこには主に、何時にどんなことをしたかの記録と少女の食べたもの、なにかしら気づいたことなどを書くように言われている。

 与一はこれを少女の世話をしながら、少しずつ書き留めていた。
 テンプレートの作成も済んでいた。

 だが、少女には教えることが山ほどあり、家のこともやり、思いの外ひとりの時間が確保できず。

 本来なら世話と並行して進めるつもりが、後回しにしがちだった。

「これから、やります」
「君は本当に働き者ですね。感心します」

 サラリーマンの初任給を超える前金を受け取っておいて怠けるわけにはいかない。
 それに男の頼みであれば面倒がっている場合ではない。

 与一は身を起こす。
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