キミ観察日記
 男の目は、笑っていない。

「……はい」
「私が打算に満ちた冷酷な人間だということも。笑って人を欺くことも」
「それでありながら。慈悲深いことも、知っているつもりです」
「君は私を買い被りすぎです」

 与一は、信じたかった。

 目の前にいる男の優しさがーーそのほとんどが偽りであったとしても、紅花へ向けられるそれが本物であることを、心から願った。

「果たしてルールを守ることが、正しい選択なのでしょうか。悠長なことを言っているうちに、たとえばあの子がボロボロになって。死んでしまったあと。かわいそうなことをしてしまったが、仕方なかったと諦められますか」

 与一が、力いっぱいに拳を握りしめる。

「まさか。絶対にそんなことはさせません」

 そう言った少年の瞳に迷いはなかった。

「私はね。罪人がたいした罰も受けずにのうのうと暮らす世の中に憤りを感じています。君もそのはずです。協力してくれますね? 与一くん」
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