彼女は突然、僕の前に現れた。
彼女は突然、僕の前に現れた。
 「今日、貴方の家に泊まらせてください!」
 「…は?」

 普通のどこにでもいそうなサラリーマンの僕、花田敦二十九歳独身。
 そんな独り身の僕の家に訪れるのは宅配便のお兄さんか郵便配達のお兄さん、それか新聞の勧誘だけ。
 だから可笑しいのだ。
 玄関のドアを開けば可愛い不思議な髪の色をした少女がそこにいた。

 数分前、敦は居間でテレビを見ていた。
 すると玄関のチャイムがピンポーンと鳴った。
 宅配かな、と思いつつも最近通販を頼んだ覚えはなかった。
 不思議に思ったが僕は出ることにした。
 「はーい」
 誰が来たのか確認もせずドアを開ければ…彼女がそこに立っていたのだった。
 少女は一言目にこう言った。
 「貴方の家に泊めてください!」
 「…はい?」
 そこで今に至る。
 少女はキラキラと目を輝かせて敦をずっと見つめている。
 「えっと…誰?」
 「昨日、貴方に助けてもらったものです」
 え、昨日?
 敦は昨日のことを思い出す。
 昨日のことは鮮明に覚えていた。
 あの出来事を忘れることは不可能だろう。
 道を歩けば人にぶつかり謝ったのにも対し喧嘩を売られた。
 会社に着けば後輩の女性にコーヒーを浴びせられた。
 定時終わりの帰り道では昼間雨が降ったのか道路に水たまりができており、道路を通った車に弾かれた水が自分自身にかかった。
 それだけだと不運で終わるが、それすらもどうでもよくなりましてやその不運な出来事さえも忘れるような出会いがった。
 それは住んでいるマンションの近く。
 天井の隅にはクモの巣がはってあり一匹の蝶々がそのクモの巣に引っかかっていた。
 その蝶は言葉に表せれないほど美しかったため敦は手を伸ばしクモの巣からその蝶を解放した。
 不幸に苛まれたことは忘れてもその蝶だけは忘れることは出来なかった。
 そしてこれは偶然なのだろうか、と敦は疑う。
 目の前にいる少女の紙の色が昨日見た蝶とまさに同じ色をしているのだ。
 その色彩を持つ人間はいないだろう。
 同じ風に染めたとしても、あの時の蝶のように美しくはならないだろう。
 しかし、少女はその美しさを持っていた。
 染めたわけではない、それがまるで地毛であるかのように。
 「君のその髪の色は…」
 敦がそう口に出すと少女の表情はぱぁっ!と明るくなった。
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