有難うを君に
カメラ目線の女の子の視線は当然カメラマンに向けられたものだろう。必然的に自分に向けられているように見える。

ソープとゆうか風俗とゆう物に興味はある。今まで1度も行った事がないのは行く理由がなかっただけで、金額に目を瞑れば行かない理由が特にあるわけでもない。

こうゆう商売に偏見があるわけでも、同じ様に働く女の子に対しても偏見はない。寧ろ、尊敬すら出来る。自分が女性に生まれていたとして俺にはきっと出来ない仕事だから。

世の中何事もチャレンジ!

思い立ったら即行動に移す性格は良いのか悪いのかイマイチ判断出来ないが、自分の性格は把握しているつもりだ。

1度気になってしまうと、どうせ確かめるまで頭から離れない。なら、サッサと答えを確かめに行くに限る。俺は冷めたコーヒーを喉に流し込むと、トレイを片付けて店を出た。

駐車場に向かう道すがらにある【ラビットハウス】と書かれた店をそれとなく見てみると、30代ぐらいの男が立っていた。とりあえず本を置きに車に行ってからすぐさま今来た道をとって返す。

再び【ラビットハウス】。

初めてのソープに心臓の鼓動が速くなるのがわかる。それを悟られないように必死に抑えながら俺は店の前で立ち止まった。

「いらっしゃいませ!お遊びですか?」

先程の男がにこやかに声を掛けてくる。出来る限り平静を装いながら返事をする。

「はい、今いけますか?」

「大丈夫ですよ!どうぞ」

促されて店の中に入ると、正面の壁に大きな写真が並んでいて、バニーガールの格好をした女の子達が艶美な微笑みを浮かべてこちらを見ている。すぐ左に下駄箱がありスリッパが並べられていた。

「靴を脱がれて上がってください。お客様、当店は初めてですか?」

「初めてです。とゆうかこうゆうお店自体初めてなんですよ」

靴を脱いでスリッパに履き替えながら答えると、男性スタッフがテキパキと靴を下駄箱にしまってくれた。

「そうなんですね。当店をお選び頂いてありがとうございます。こちらで受け付けさせて頂きますね」

男性スタッフはにこやかにそう言ってから右手側にある受け付けカウンターの中に入って行く。カウンターと言っても簡易的な感じで、幅1メートル強程の長さがあるだけだ。

「それでは受け付けさせて頂きます。当店初めてお越し頂くとゆう事で、簡単に説明させて頂きますね」

男性スタッフは笑顔を絶やさないままネットで見た店のコンセプトや料金体系などを丁寧に説明してくれ、最後に一言付け加える。

「ご不明な点などございましたらお尋ねください。それでは女の子と時間の方がお決まりでしたらお伺い致します」

「えと、ミオンさんで時間はマンデーイベントの100分のコースにしたいんですけど・・」

「はい、ミオンさんですね、大丈夫ですよ。それではマンデーイベントの100分コースで入会金込みの丁度3万円ですね」

イベント料金なのでおそらく安いのだろう、それでもとてもリーズナブルとは思えないのは俺の性格なのだろうか?

「じゃあ、これ」

「はい、では3万円丁度いただきます。ありがとうございます」

スタッフはレジにお金をしまうと、カウンターの下からB4サイズの紙を取り出して俺の方に向けて置いた。紙には幾つか項目があり『名刺を受け取りますか?』など、選択式の回答欄がある。

「こちら簡単なアンケートになっておりますので記入をお願いします」

言われたままに『はい』『いいえ』『両方』などの回答に丸をつけていき、書き終えてからスタッフにペンと一緒に差し出す。

「ありがとうございます。それではこちらの番号でお呼び致しますので、待合室の方でお待ち下さい」

ラミネートされたカードの真ん中に大き目の数字で4と書かれていた。受け付けの背中側が待合室になっているらしく、出入口には黒いカーテンが引かれている。

「どうぞ、冷蔵庫の中のお飲み物はご自由にお飲みください」

カーテンを引きながらにこやかに言うスタッフに従って、待合室に入った。長方形の4畳程のスペースには壁に沿ってコの字型にソファーが置いてあり、ソファーの正面にはテレビが掛かっている。その下にある本棚には漫画がぎっしり並べられたいた。

ソファーには先客が2人居て、知り合い同士なのか話しをしていた。先客の2人が入り口から近い位置に座っていたので、俺は奥に行くしか選択肢がなかったのだが、ソファーと本棚の間には机があってギリギリ1人通れるかどうかの隙間しかない。仕方なく身体を横に向けると、テーブルと先客2人の間をすり抜けるようにして通ってから部屋の奥側のソファーに腰を下ろした。

テレビはついていたが、時間的にワイドショーが流れていて大して興味を持てる内容でもなく、目の前のテーブルに灰皿があるのに気付いてタバコに火を付けた。

半分程のタバコが灰になった頃、入り口のカーテンが開いて先程の男性スタッフが顔を出した。

「2番でお待ちのお客様、お待たせ致しました」

先に居た2人の内の出入口側に座っていた客が、吸っていたタバコを灰皿に押し付けると立ち上がり、スタッフの後に付いて出て行く。

それから俺がタバコが吸いおわるまでに、同じようにもう1人の客も案内され部屋に1人になった。

途端に言いようが無い緊張感に包まれた。女性経験は少なくないが、初めて体験する『風俗』に鼓動がやけに大きくなる。俺はタバコを消して、手を伸ばせば届く位置にある冷蔵庫からお茶を取り出しプルトップを起こすと、一気に喉に流し込んだ。

勿論そんな事では毛ほども緊張は薄まるわけも無く、消したばかりなのに俺はまたタバコを取り出して火をつける。思いっきり吸い込んだ煙を深呼吸をする様にゆっくりと吐き出す。

灰が1センチにも届かないぐらいで待合室のカーテンが引かれ、男性スタッフから声を掛けられた。

「お待たせ致しました。番号札4番でお待ちのお客様」

俺はまだ長い所為で消しにくいタバコの火を消すのに少し手間取り、番号札をポケットから取り出して立ち上がった。

待合室を出てすぐ左手にある、おそらく建物の奥に続いているであろう廊下に吊るされたカーテンの前で立ち止まる。

「すいません、一応エチケットになりますのでこちら2.3回お願いします」

手渡されたマウスウォッシュを言われた通りに3回口の中に吹き込むと、ミントのなんとも言えない味がした。

目の前のカーテンはギリギリ床まで届いておらず、5センチ程の隙間から黒いハイヒールに包まれた足が見えていた。

「それでは、どうぞお楽しみください」

男性スタッフは言い終わると同時にカーテンを引き開けた。

「初めまして、ミオンです」

黒いバニースーツに身を包み、頭には可愛らしい耳。歯に噛む様な笑顔の口角からは八重歯が覗いていて、人懐っこさ感じさせる。際立つ程の美人ではないが、スレンダーなスタイルと高めの身長はミオンを魅力的に見せていた。

「初めまして、よろしく」

一歩足を踏み出すと、背中でカーテンの閉まる音がする。

ヒールを履いている所為で俺と変わらない高さにあるミオンの顔が不意に近付いた。その細い腕が俺の腰に回され、そのまま唇が触れた。

「んっ・・」

唇から僅かにミオンの吐息が漏れた。俺の肩幅より大分狭い身体に腕を回すと、背中まである髪に手が触れる。その髪と背中の間に手を滑り込ませて少し抱き寄せた。

唇が離れミオンが八重歯を見せる。

「こっちにどうぞ」

俺の腕を取りながらミオンは奥に向かって歩き始める。よく見ると奥に続く廊下の左右と突き当たりにホテルの様にドアが並んでいた。

向かって右手側に3つあるドアのうち1番手前にあるドアを開け、先に入る様に促すミオンに従って中に入った。

広さは多分10畳ぐらい。受け付けと同じ様に黒と赤を基調にした部屋は少し暗めの照明の所為で扇情的な雰囲気だった。何より他では見れない部屋の作りだった。

入って奥に向かい縦長の部屋の丁度半分辺りに腰より少し低い高さの仕切りがあり、真ん中の部分が2メートル弱ぐらい途切れていて仕切りの奥半分は風呂場になっている。

手前は左奥にベッドが置いてあり、入り口からベッドまでの壁沿いに小さな冷蔵庫と、やはり小さなテーブルが置いてあった。

「上着掛けますね。荷物はその籠に入れてください」

ミオンが慣れた手付きで俺の上着を脱がせながら言った。足元に置いてあった籠に鞄を入れる。

「ありがとう」

御礼を言いながら、取り敢えず椅子はないのでベッドに腰掛ける。上着をハンガーに掛け終えたミオンは風呂場の脇にある棚に積まれていたバスタオルを1枚取って、それを俺の足元の床に敷くとその上に膝を付いて座った。

「じゃあ失礼します」

ミオンはそう言って俺の服を脱がせると丁寧に畳んでから荷物を入れた籠に入れていく。下着だけを残した状態で、カチューシャになっているうさ耳を外し、バニースーツと網タイツを脱いだ。

白い肌とスレンダーなボディライン、大きくはないが形のいい胸も露わになる。俺の視線に気付いたのかミオンが八重歯を少し見せた。

「お風呂行きましょう」

ミオンが俺の下着を脱がせてから、風呂場になっている部屋の奥側に歩いて行く。その背中ついて行き、風呂場の真ん中辺りに置かれていた椅子に座る。

「身体洗います。触られたくない所とかあったら言ってくださいね」

淀みない手付きで風呂桶にボディソープとローション、シャワーで少しお湯を入れて泡立てる。

「お湯の熱さ大丈夫ですか?」

「うん、丁度いいよ」

「たまに急に熱くなったりするんですよね」

シャワーヘッドに手を当てて、シャワーからのお湯が直接俺の身体に当たらない様にしながら身体を濡らし、桶から泡を取ると全身を密着させながら丁寧に洗って行く。しっかりと胸の膨らみも主張してくる。

「お兄さんこうゆう所よく来るんですか?」

「いや、実は今日が初めてなんよ」

「あ、そうなんですね。デリヘルとかも行った事ないんですか?」

「ないね。何となくちょっと抵抗あったんだけど、今日勢いで来てみた」

冗談めかして言う俺にミオンも合わせて笑ってくれた。

「じゃあ私がお兄さんの『初めて』ですね」

「そうなるね。優しくしてね・・」

「あははっ!わかりました。任せてください」

ひと通り洗いますね終わると、シャワーで泡を流して湯船に浸かる。歯磨きとうがい薬の入ったコップを渡され、2人で歯磨きとうがいを済ませた。

「どうして今日来ようと思ったんですか?」

「ん〜どうしてって事もないんだけど、興味はあったから1度は来てみたかったのと、たまたま休みで暇だったからかな」

「そうなんですね」

「あぁ、後、安くない金額払ってまで通う人がいるから、その価値があるのか確かめて見たかったのもあるかな」

「・・それ、私凄いプレッシャーなんですけど」

それから少し話をしてから上がり、丁寧に身体を拭いてもらって2人でベッドに横になる。俺に覆い被さるようにミオンがキスをし、唇から頬へ、頬から首へゆっくりと下がって行った。







「次来てくれた時は二回戦頑張りましょうね」

俺の腕に頭乗せたミオンが耳元で呟く様に言うと同時に、部屋に備え付けられた電話が三回コールを鳴らして切れた。

「出なくて良かったん?」

「大丈夫ですよ、あれは15分前のコールなんです」

「ああ、成る程ね。そろそろ出る準備してくださいって事か」

「はい、そうゆう事ですね。5分前にもコールが来ますよ。風呂行きましょうか」

最初と同じ様に丁寧に身体を洗ってもらい、拭いてから服を着た。

「タバコ吸って大丈夫?」

「大丈夫ですよ。私も吸っていいですか?」

「吸うんだ?別にいいよ」

俺が咥えたタバコにミオンが直ぐ様ライターを取り出して火をつけた。

「ありがと」

ミオンもタバコを咥えるとそれに火をつける。俺は煙りを吐き出しながらミオンに話しかけた。

「この仕事長いの?」

「このお店はまだ3日目ですよ。それまではデリで働いてました」

「へ〜、なんでソープで働こうと思ったの?あぁ、嫌なら別に答えなくて大丈夫だけど」

「平気です。やっぱり単純にお金になるってのは大きいですね。あとは人と話すのも好きなんですよ」

「そっか。でもしんどいやろ?」

「まあそうですね、慣れるまでは仕方ないと思ってます。それにどんな仕事でも大変だと思うし、大変ですけど嫌ではないんですか。楽しい事もありますし」



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