有難うを君に
告白
「俺はじゅりの事が好きだ。人間としても好きだけど、それ以上に1人の女として」

誤魔化しきれない程に育ってしまった想いからは、もう逃げられない。

「ほんとごめん、面倒な客になりたくなかったけど、言わずにはいられなかった。でも、付き合ってとか言うつもりはないから安心して。こうして会えるだけで、いつかじゅりが引退する時まで今迄みたいにくだらない話で笑ったり、じゅりがにへらって笑ったり、それだけで充分だから」

「え、ちょっと待って、私そんな変な笑い方してるん!?」

「え?してるけど」

「いやいや、そんな笑い方してへんよ!」

拗ねるじゅりを見て幸せだと思えた。

「有難う」

「何が?」

「こんな私を好きになってくれて有難う」

真剣で、でも何処か悪戯っぽい顔でじゅりはそう言った。

「こちらこそ有難う、ここに来てくれて、俺と出会ってくれて有難う」

じゅりが、またにへらっと笑った。






1月が終わり、2月の初めに大阪に帰っているじゅりからメールが入った。

『見て見て!』

その後に写真が添付してあった。どこかのスーパーで撮ったのだろう、ブラウンエノキが写っていた。

『めっちゃ安い!普通のエノキより安かってん!』

はしゃいでいるじゅりが簡単に想像でき、その想像で顔がにやけてしまう。

『飛び跳ねてるじゅりが簡単に想像できたわ』

『え!何でバレたん!?』

『そりゃ、その程度には一緒にいるからな』

勿論毎日じゃなく、たまに。

思い出した様に送られて来るメールはやっぱりどうでもいい内容で、それが嬉しくて、俺はアホだなと自嘲気味に笑う。

やって来た2月の12日。

ほんの少しだけ期待していたメールは来なかった。

『誕生日おめでとう』

勝手な期待だ。

「ま、そりゃそうか」

何人もの本指名がいる中で、どちらかと言えば多分俺は付き合いは短い方だろう。わざわざ誕生日だからとメールを送る義理もない。

諦め半分、納得半分。

次にじゅりが来たのはそれから5日後だった。

1週間程の滞在の間にどうにか時間をやりくりして予約を入れた。

「お疲れ〜」

「お疲れ、調子はどう?」

「いつも通りやけど、いきなり何よ?」

「いや、何となく」

意味も無い挨拶を交わして部屋に入って、いつも通り上着をハンガーに掛けてベッドに腰掛けた。

「はい、これ」

じゅりが俺の顔の前に白い紙袋を差し出しながら言った。

「誕生日おめでとう」

「・・おめでとうだけでいいって言ったのに」

「もう買ったんやからしゃあない!大したもんじやないし」

意趣返しをしてきたじゅりの手から紙袋を受け取った。

「ありがと、見ていい?」

「ええよ」

中に入っていたのは俺の吸っている銘柄のタバコが5箱と、便箋が1枚。

「タバコ、よく覚えてたね」

「前に空き箱置いて帰ったの覚えててん、賢いやろ?」

「ドヤ顔する程ではないけどな。ほんとに嬉しいよ、ありがとう」

手紙も読もうかと思ったが、落ち着いて読みたかったので「後で読むな」と、言って紙袋の中に入れ直した。

俺が気持ちを打ち明けてからも、じゅりは何も変わらなかった。

ただそこに居るだけで幸せだと満たされていく。

帰り際に

「めっちゃ幸せ」

と俺が言うと、じゅりはまたにへらっと笑ってくれた。




新型コロナウイルス。

突如蔓延したそのウイルスは、じゅりとの時間を奪って行った。

『コロナが落ち着く迄は行かへん。うつしたないし』

暫くはたまに取っていた連絡もやがて無くなり、既に今年も残すところ後3ヶ月。

コロナが落ち着くのがいつになるかはわからないまま、悪戯に時間だけが流れて行く。

もう、会えないかな

そんな事を考えてしまう。

あの日、じゅりから貰った手紙を読み返す。

ノートを切り取った様な長方形の便箋に、マジックと色鉛筆を使って描かれたケーキにhappy birthdayの文字。

書いているじゅりを想像すると、また顔がにやけてきた。



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