教育戦争と色
世界は戦争をやめた。
武器を持ち、人を人と思わず、敵国を鎮めるためなら何でもする残酷なもの。
それが戦争なんだと大人たちは言った。
世界は確かに戦争をやめた。
その代わり、教育で競い争っている。
武器を持ち同じ人間を殺めることを不毛とした世界は、各国の学童たちの質を見ることにした。
学童たちはその国の未来の戦力になりゆる者たちだ。
結果、どの国の学童が一番優れておりどの国が世界の主導権を持つのか、という話になった。
結局は武器を安全な教育、勉学にすり替えただけである。
時は20××年。子供が実質戦争に巻き込まれる時代になってしまった。

(予鈴)
生徒が一斉に立ち上がる。
机の上には全員寸分違わない位置に教科書が置いてある。
この光景はとても異様だ。

「起立、礼、着席」

これぞ学校ならではの言葉だ。

少女の席は窓側の一番後ろ、の前の席。
名前は『色|《しき》』
少女は教室の空気が冷め切っていることに嫌気がさしていた。
自分はなぜこうもつまらない世界に生まれたのだろうと、一日に300回は考えては、やめる。結局どうにもならないことを少女は知っているからだ。

両親の顔を思い出そうとした時も、勉強が嫌になった時も、給食の献立が嫌だった時も、すべてどうにもならなかった。
少女はそれでも常に疑問に思っていたことがあった。
『なぜ、勉強をしなければいけないのか』
少女の頭の中は、今日もこのことでいっぱいになっていた。


少女は頭が良かった。
唐突だが、皆さんは九九の段をすべて寸分違わず答えられるだろうか。
もちろん言えると思う。少女も当然に答えらる。
ただ一つ違うのは少女はすべて計算をしながらその場で答えを出しているのだ。
これは誰にでもできるが、本当の意味でできるものは少ない。
九九の段というのはとても単純であり、ほとんどの人が暗記できてしまうほどに簡単である。
だがその簡単とは暗記をしているからであって、暗記をしていないことを問われると崩れてしまう諸刃の剣だ。
しかし、少女はすべて計算から導いているため、暗記する必要がない。
むしろそれ以上の計算をする時暗記というのは無駄なだけである。
つまり簡単に言うと少女は人間型電卓のようなものだった。

教育で戦争が行われる世界。
そこで少女がいかに重宝され育ったか、いうまでもないだろう。
少女が土地をかけた計算大会に出れば優勝間違いなしだ。
そんな少女が勉強するために学校に来て、毎日重たい空気をわざわざ吸わなければいけない理由なんてどこにもなかった。

だから、少女はため息をつき窓の外の青いはずだった空を見上げるのだった。
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