にじいろの向こう側




早朝、「申し訳ございません!」と、職務を全うしたがるメイドにフラレて、何となく満たされた気持ちで迎えた、気だるさ残る寝不足の今。


「失礼致します。」


圭介の淹れてくれたいつもよりだいぶ濃いめのコーヒーで頭の中まで強制的に目覚めさせられた。


「もうしばらく経ちましたら鳥屋尾が支度の手伝いに参りますので。」


そう言いながらワゴンの上の皿やカップ、ポットの配置を微調整する圭介は含み笑い。
まぁ、いつもの事ではあるけれど。圭介は何でもお見通しだから嫌になる。

微笑みを纏いながら片付ける、さりげなく美しい所作を見つめながら、数年前、ここへ来た圭介と涼太の事をふと思い出した。









大学を卒業して3年後、イギリスで執事のA級ライセンスを取った圭介とニュージーランドでガーデニングの大会の優勝を勝ち取り、プロアドバイザーとなった涼太が突然現れて「雇って欲しい」そう俺の親父に頭を下げた。

無論、大学時代から優秀で目立つ存在であった二人を雇う事に、異論を唱える者はいなかったけれど、問題は雇い方にあった。

たった数年で、それぞれの道を極めた二人の天才ぶりに親父も会社やグループ内の重役達も、会社に入って欲しいと口を揃えて訴えた。
けれど頑なにこの屋敷に執事として、庭師として勤める事にこだわった二人。

「いくら出せばいい?」と親父に言われた時の圭介の表情を今でも覚えている。


口元を歪ませて笑顔を作っているのにどう考えても笑っていない冷めた目。それを真っ直ぐに親父に向けていた。


「金をいくら積まれましても、『谷村瑞稀』の傍らに居ると言う価値に比べたら俺にとってはそんなのクズ同然です。何の価値もありません。」


そんな圭介を涼太は黙って腕組して見守っていたっけ。

あれから二人には随分おんぶに抱っこだよね…俺は。本当に、二人とも俺の事をよく見ていてくれている。俺が屈折はしても、歪みきらなかったのは二人のお陰なのは間違いない。


…だからさ。



「……薮。」


余計にちゃんと知りたいんだよ。
圭介が今、何を考えてるのかを。



「咲月の事で聞きたい事があるんだけど。」




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