指輪物語 ーあなたの海になりたいー


受験の日程がすべて終了した。





ヒサ先輩はK大学の医学部に無事合格したということだった。


有名進学校といわれる、うちの高校からでもK大学に受かることは大変なことで、ヒサ先輩がK大に合格したと職員室でも大騒ぎだった。

職員室前にはたくさんの先生と生徒が集まり、ヒサ先輩の合格を喜んでいた。


しかも医学部合格、ヒサ先輩を応援していた大森先生も笑顔で、初めて見る喜びの涙に、それが驚きだった。


久しぶりに見た田辺生徒会長や小野塚先輩に囲まれ、ヒサ先輩は笑顔を見せていた。




俺はそれを遠くから見つめた。



ヒサ先輩のパワーになっているのは優也兄ちゃんで……それがこの大学合格に繋がったんだと思う。


「……」


“嫌われる勇気”か……。


海に指輪を投げ捨ててしまったことで、俺はとっくにヒサ先輩から嫌われている……。




マイナスからのスタートか……。


人を好きになるって、こんなに大変なのか……。




ドキン……。


ヒサ先輩と目が合った。


見つめ合うことが、こんなにも苦しいなんて――――。



俺は目を伏せ、その場を後にした。


< 276 / 312 >

この作品をシェア

pagetop