指輪物語 ーあなたの海になりたいー
受験の日程がすべて終了した。
ヒサ先輩はK大学の医学部に無事合格したということだった。
有名進学校といわれる、うちの高校からでもK大学に受かることは大変なことで、ヒサ先輩がK大に合格したと職員室でも大騒ぎだった。
職員室前にはたくさんの先生と生徒が集まり、ヒサ先輩の合格を喜んでいた。
しかも医学部合格、ヒサ先輩を応援していた大森先生も笑顔で、初めて見る喜びの涙に、それが驚きだった。
久しぶりに見た田辺生徒会長や小野塚先輩に囲まれ、ヒサ先輩は笑顔を見せていた。
俺はそれを遠くから見つめた。
ヒサ先輩のパワーになっているのは優也兄ちゃんで……それがこの大学合格に繋がったんだと思う。
「……」
“嫌われる勇気”か……。
海に指輪を投げ捨ててしまったことで、俺はとっくにヒサ先輩から嫌われている……。
マイナスからのスタートか……。
人を好きになるって、こんなに大変なのか……。
ドキン……。
ヒサ先輩と目が合った。
見つめ合うことが、こんなにも苦しいなんて――――。
俺は目を伏せ、その場を後にした。