たとえば、こんな人生も
「……うぅ…っ…ふ」

「ひなた」


堰(せき)を切ったように
わんわん泣きじゃくる私を抱き締めて

いつきさんは優しく言う



「ひとりを選ばないで」




……なのに


最後の最後


私がひとりでいることを許さない人が現れた



暗いところに座り込んで

時折、明るいところから
おいでと言いながら手を伸ばしてくれる相手がいても

俯いたまま、手を伸ばそうとしない私


明るいところにいる人は
暗いところにはこれないから

そっちに行きたいなら私が手を伸ばすしかない


だけど、どうしてもそれが出来なかった


その手を汚したくなかった

綺麗な人を汚したくなかった



このままでいい

誰も汚したくない

優しい人は優しい世界にいて欲しい


こんな世界にいる私の事は見なくていい



でも


来れないはずの暗いこの場所に
踏み込んできた人がいた

汚れるのも厭(いと)わずに

私の手を取って
明るい方に引っ張ってくれる人が現れた


隣に

時には後ろに、前に


傍にいてくれる相手が



「……っ」



泣きながら

私はすがるように、いつきさんの背中に手をまわした

それに応えるように力強く抱き締めてくれるいつきさん

その手はすごくあたたかくて



……このあたたかさがすごく



恋しかった
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