たとえば、こんな人生も
「まあ、相手はあの『いつき』だからね
ひなが見たのが私達の知る『いつき』だよ」


「ひたすら相手を甘やかして
どろどろに溶かして、快楽の中に落とす」


「嫌なことも苦しいことも
なにもかも全部、忘れるくらいに」



「だから、みんな『いつき』を欲しがる
『いつき』を求める」



「……みんな、怖くないの?」



私はそれが一番怖かった

あんな、ただただ気持ちいいだけの刺激


深い深い底に落ちていくような

そこから這い上がるのが嫌になるような感覚



「怖くないから、欲しいから求めるんだよ」

「……」

「……ひなは……痛みに慣れすぎてるからかもね
今まで自分の体に与えられる刺激は
痛いものばかりだったから」


「だから、甘い刺激に怖くなったんじゃない?」


「……そう、かもしれない…」



今までずっと

この体に与えられるのは痛みだけだったから


あんな肌がびりびりするような甘い刺激

頭がぼんやりしてふわふわ浮いてるような感覚

意識が深いところに落ちていくような気持ち良さ


そんな感じになったのは初めてだったから
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