白雪姫に極甘な毒リンゴを

 紫のタオル?


 タオルで前は見えないけど、
 誰がかけてくれたかはすぐにわかった。


 は~は~と口からもれた呼吸で、
 階段を駆け上がってきてくれたのがわかる。


 タオルの上から、
 大きな掌が私の頭を撫でてくれている。


「今日の練習試合、
 見に来てくれないかと思った」


 私の冷たくなった心を溶かすように、
 陽だまりみたいな声が耳に届いた。


「紫音くん……私……」


「落ち着くまで、このままでいればいいよ。

 タオルが隠してくれるから。 
 泣いているところ。

 でもさ、
 元気になったらちゃんと見てよね。

 自分で言うのもなんだけど、
 バスケをしている俺、かっこいいから」


 紫音くんの言葉に、
 フフフと笑いが込み上げてきた。


「あとさ、試合が終わっても、
 観客席で待っていて。
 俺が来るまで」


 紫音くんは、
 タオルで顔が隠れた私の頭を
 ポンポンしてくれた。


 紫音くんの離れていった足音が、
 優しく響いていた。


 今まで何度、
 紫音くんに慰めてもらったんだろう。


 いつもいつも、
 私がつらい時に優しく包んでくれる。


 その優しさに、ずっと甘えてきた。


 紫音くんありがとう。


 おかげで、勇気がもらえたよ。


 桃ちゃんに、きちんと謝る勇気。


 そして、自分の気持ちを、
 素直に伝える勇気。


 紫音くんのタオルで涙をぬぐうと、
 私はそっと顔を出し、
 真ん中あたりの一番後ろ席に移動した。
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