上司の過去と部下の秘密〜隠れ御曹司は本気の恋を逃さない〜
「おうい、羽場ちゃん。そんなに俺を見つめて、惚れちゃった?」

「いいえ。ありえないあくびの発信源を突き止めて、呆れていたところです」

「相変わらず、羽場ちゃんは厳しいなあ。ふぁぁ……」

何度〝ちゃん〟付けはやめてくださいって言っても、ふざけているのかなんなのか、一向に正す気配はない。あまりのいい加減さに呆れて、おもわず私も遠慮のない言葉遣いになる。

私は、はっきり言ってこの男が嫌いだ。いや、大っ嫌いだ。
世の中の、いい加減、不真面目っていうものが、どうにも許せない。

そんな私は、これまで生真面目な堅物って影で言われていたほど、融通の効かない性格だ。
ただ、気を抜くと口調だけは真面目から外れてしまう。

羽場しおり、24歳。ここは、私の勤める飲料品メーカーの企画課だ。同じ部屋には他課も入っているため、在籍する社員数が多く、いつもざわざわしている。だから、三上さんの気の抜けたあくびも、私たちのやりとりも、そこまで悪目立ちはしていない。

大学入学と同時に上京して、そのまま東京で就職して今に至る。実家は群馬で、一人っ子の私が家を出てしまったから、元気すぎる両親が二人で暮らしている。

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