リペイントオレンジ🍊


「普通、忘れてることに気づくだろ」

「……それは、その。明後日の会議で使う書類なので、今日は」

「たとえ今日使わなくても、普通はなかったら気づく」

「……おっしゃる通りでございます」



朝、洗顔を済ませて、菅野さんから予備の歯ブラシをもらって歯磨きをして。

菅野さんよりも早くマンションを出た私は、兎にも角にも”すっぴん”ってことに気を取られていた。


結局、木村先生からメイク道具を借りる暇もなく会議は始まるし、榊先生にはからかわれるし……ついてなかったけど。


まさか、大事な書類まで忘れてたなんて誰が思っただろう。



「まぁ、いい。人に見られると厄介だから、早いとこ帰れ」

「そんな、人を厄介者みたいに……」

「現にそうだからな」



……い、否めない。



「菅野さんは、今日は夜勤ですか」

「当番だ」

「当番……」

「…………」


あ。
今、分かんないなら聞くなって顔した。

普段は分かりにくいくせに、そういう感情だけは必要以上に全部顔に出るんだから。

< 48 / 133 >

この作品をシェア

pagetop