秘密の恋はアトリエで(前編) 続・二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
「ねえ、研究室の沢渡靭也先生って知ってる?」
 ようやく大学生活にもなじんできた5月末の放課後。
 カフェテリアで美岬とふたりでお茶を飲んでいるときだった。

「……えっ?」と突然、靭也のことが話題にのぼり、夏瑛はあやうくカフェオレを噴き出しそうになった。

「みんな、沢渡先生じゃなくて(じん)先生って呼んでるけど。1年女子の一番人気だよ。熱心な追っかけもいるし」

「……そうなんだ」

 そりゃ、靭にいちゃんは誰よりも素敵だけど。
 まさかほんの1ヵ月でそんなにファンがいるなんて寝耳に水だ。

「ほら、去年、『美術通信』に紹介されてたじゃない。新進気鋭の画家ってタイトルで。あれで、この学校選んだって言ってる子もいたよ。
ほんとかどうか知らないけど」
 
 そう。公募展に入選した作品とともに靭也が美術雑誌に載ったことがあった。

 靭也に尋ねたら「大学の同級生があの雑誌の編集者で、無理やり取材された」って言ってたっけ。
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