1日限定両想い

お昼休みの賑やかさから逃れるように、私はある部屋の前に来た。



『おう。』


小さくノックをすると短い返事があって、そっとドアを開いた。

陽の当たらない場所にあるからかいつも少し薄暗くて、埃っぽい。

だけど私はここが、迎えてくれるこの人が、なぜか落ち着く。



「お湯、貰ってもいいですか?」

『あぁ、ちょうど沸いたとこや。』


私がカップスープを取り出すと、菊池先生がケトルからお湯を注いでくれた。


2年になったばかりの頃、この部屋の前で途方に暮れていた私に声をかけてくれたのが菊池先生だった。

体育の菊池先生といえば"怖い"で有名で、私も最初はかなり緊張した。

だけど話してみると怖さなんて全然なくて、本当はちょっと不器用だからぶっきらぼうになってしまうだけなんだと分かった。



『作る時間なかったんか。』

「いえ、今日はこれが食べたくて持ってきました。ここに来ればお湯も貰えるし。」


ふっと笑った菊池先生に、私も小さく笑う。


私が学校で笑うのなんてここだけだと、最近気付いた。



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