イルカ、恋うた
ライターが傍にいるかのように、平然と話してる。


その木田はしっかりと、耳を立ててる。


「木田、お前……」


「俺はルポを書きたいんだ。解決しないうちに、発表しない。

伊藤さんにも約束してある。このことは、一切会社にも言ってないんだ。

全てが終わってから、世間に事実を伝える。その方が、警察や検事にもいいだろう」


俺は困惑した。


この二人は、検事も捏造に関わっていると考えているのだろうか。


警察がシナリオを作り上げたら、検事は信じるしかない。


いや、捜査検事がどうしたか。


佐伯検事正は、公判を担当したのだ。


彼なら身内を信じるだろう。


公判に用意される資料は、完璧に出来上がっているんだろうから。


「……竜介、どうした?ぼーっとして。あ、また上を気にしているなぁ。平刑事は、確かに本庁の刑事は怖いだろうよ。でも、バレなきゃいいじゃん」


木田は軽く言った。


「いや、違うことだよ」


木田は突然鳴りだした携帯を開き、メールを確認した。


上司からの「戻れ」と指示に、彼は渋々店を出た。


彼が外に出たのを、見計らったかのように、伊藤弁護士が口を開いた。


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