イルカ、恋うた
《2》

転機

ある日突然、署長に声をかけられた。


「水島君は、刑事が夢だと、いつか話してくれたね?私は、ある優秀な青年に推薦状を与えようと思うんだ」


署長室でそう言われ、俺は硬直していた。


彼のいう意味が、初めは理解できなかった。


だけど、署長が何やらニヤリと笑うので、「まさか」と思った。


「え、いや。あの……」


声にならない。


舌がひきつったように、回らなくなった。


「おいおい、落ち着け。まだ、書類審査に、筆記試験、面接と続くんだ。お前さんなら、やれそうな気がするんだ。

その正義感と、やる気ありそうな目が気に入ったんだ。恥かかすなよ」


背を叩く上司の手は、熱く痛かった。


俺は応えなきゃと思った。


ましてや、推薦してくれる上司に恥をかかすなんてできない。


それは、死ぬ気を起こさせた。


元々、人に恩を感じると、必死になるタイプなので、気合いを入れた。


書類審査は祈るしかないが、試験と面接は、本人の努力しだい。


正直、憂鬱だった。


苛立ちから、さじを投げそうになった。


だが、その度に父に、横から怒られているような錯覚を起こした。


「するんだ」と叱られ、勉強や面接の練習をした。
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