イルカ、恋うた
終章 ※三人称
「本当に行っちゃうんだな」と、桜井は呟く。


「うん。色々とごめんね、お兄ちゃん」


彼は少し寂しそうな表情を浮かべた。


「やっぱり、そう呼ぶんだな。……ま、あの特別室でもう勝てないな、って思ったけどね」


「え?」


美月はよく分からず、首を傾げた。


「いいや、なんでもない。おっと、案件のことで、事務官からの連絡待ってたんだ。じゃあ、僕は行くよ。彼とはちゃんと挨拶したのか?……って、余計なお世話だな。じゃ、気をつけて」


去る桜井に、彼女は「お兄ちゃんも」と手を振った。


笑顔を保っていたが、美月はロビーのベンチに座ると、うつ向いた。


顔を覆う横髪を見て、泣いてもバレないかな、と考えていた。


実はあの手紙を書いた時、賭けをしていた。

手紙を読んで、彼が会いに来てくれないか、というものだ。


そして、今二つの後悔をしている。


あの絵を、中途半端に置いたまま。

そして、さよならと書いたこと。


「やっぱり、帰る……」


美月は子どものように、口を尖らせると、立ち上がった。


搭乗ゲートに行くためではない。


その頃、竜介は人混みの中から、彼女を見つけようと必死に走っていた。


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