イルカ、恋うた
何?どうしたの?と声を出すことはなかった。


視界にあった竜介の胸元が、水平に倒れ、彼の身体は足元に転がった。


「り、竜介?……りゅ…竜介!!」


美月の腕も赤く濡れてた。


ベージュ色の上着を、二人分の血で染めた。

腕からの血。


彼の――…


竜介の腹部を貫通した弾が、美月の腕をかすめてしまった。


全身に走るような激痛にも構わず、竜介は腕を伸ばし、彼女の腕の傷を押さえた。


「……いいの、平気。動かないで!!」


竜介は悔やんだ。


彼女の身体に傷をつけたこと。


それから、また泣かせていること。


腕に置いてた手を、頬に移動させ、涙に触れた。


美月はその手を握った。


――泣かないで。


彼は、自分の声が出ないことに苛立った。


はじめは、鯉のように、口を動かしていたが、そのうち疲れたのか、力が入らなくなった。


「ごめんなさい……竜介……竜介……竜介ぇ……!」


彼女の悲鳴のような泣き声が、耳と胸に響く。


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