イルカ、恋うた

思い出

ICUの中で、恰幅の良い身体が、機械と線に囲まれ、横たわっている。


一度だけ会ってことのある男性に同情した。


ガラスで仕切られ、音は一切聞こえないが、心電図は鳴っているだろうか、と不安になったりもした。


医師と話を終えた、美月と桜井検事が、隣に立った。


俺は、すぐ横に立つ彼女を一瞥した。


涙はなかったが、表情は絶望に覆われている。


「パパ、死んじゃったらどうしよう。ママもいないのに、今夜持ち越さなかった駄目だなんて、ママの時と同じようなこと言われて…」


婚約者に、胸中を語っているんだと思った。


桜井検事もそう思ってたようで、優しく名を呼び、そっと手を差し出そうとした。


だけど、その手は繋がることはなかった。


次の瞬間、ドンと俺の胸元に衝撃があった。


美月が飛び込んできたのだ。


「パパ、パパ…」


と悲痛な声が響き、俺はどうしようか、困惑してた。


桜井検事も表情を曇らせている。


だけど、彼の困惑は別のもので、疑念の視線が送られてくる。


彼女の嗚咽と、痛いくらい注がれる検事の視線を同時に感じ、ますます焦った。
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