イルカ、恋うた
《3》

もう一つの再会

署に戻るが、課長は無反応で「お疲れさん」と言うだけでだった。


「岩居さん……?」


「助け舟だろ。ああ、それより、お前に伝言だと。ほれ、メモ。木田さんって言う人から、連絡ください、と」


渡されたのは、携帯番号と出版社の名前が書かれている紙だった。


本当にライターになったのか、と驚いた。


でも、やっぱり喜びの方が大きかった。


部長から、デスクに整理を要する資料を山積みにされ、連絡は翌日になった。


メモにあった携帯に電話すると、近くの喫茶店に呼び出された。


古めかしい、レトロなデザインの店だった。


久しぶりの再会に、興奮し合うかと思っていたが、彼は至って平然としていて、こちらも冷静に握手を交しただけ。


「久しぶり。刑事まで行くとは。いや、感服」


と、木田が肩を小突いてきた。


「お前こそ、大手出版のライターだろ。スゲーじゃん。あ、言っておくが、裏情報なんてないぜ」


そう言うと、彼は急に真顔になった。


「いや、ちょっと話しておきたいことがあるんだ。この間の、東京地検、検事正の事件だけどよ」


世間では、過去の事件の逆恨みで、大方腹いせに、勢いだけで襲撃したんだろう、と報道された。
< 35 / 224 >

この作品をシェア

pagetop