俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
……誰?


急ぐ足が止まる。

目的地には先客がいて、しかも堂々と寝転がっている。

ここのベンチは木材を組み合わせて作られていて、大人がひとり、ゆうに横になれるほどの長さも幅もある。

ひじ掛けや背もたれもある立派なものだ。


……どうしてここに男性がいるの? 私以外この時間帯には入れないはず。 


城崎(しろさき)さんの勤務時間はとっくに終了しているし、頼子さんは自宅にいるはず。

ほかに鍵を持つ人はいない。


まさか……泥棒? 不審者?


ゴクリと息を呑む。

ドキドキと鼓動が痛いくらいの音をたてる。

先ほどとは違う意味合いの涙が浮かびそうになる。


足音をたてないように注意して、そうっとベンチのそばに近づく。

目を閉じている男性は眠っているように見えた。

身に着けている濃紺のスーツはとても仕立てがよく、組んだ腕から僅かに見えた手首にある腕時計は有名ハイブランドのもの。


なによりも目を引いたのは男性の顔立ちだった。


サラサラと額にかかる、黒く真っ直ぐな髪、頬に影を落とす長く細いまつ毛。

スッと通った鼻梁に薄い唇。

そのすべてが小さな顔に収まっている。

目を閉じているのではっきりした面差しはわからないが、それでも類まれな容貌なのだろうと簡単に予想できた。
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