さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜

「光彩?……どうした?」

先刻(さっき)まで堂々と「仮説」を披露していたはずなのに……

急にしゅんとなって黙り込んでしまったわたしの顔を、茂樹が(いぶか)しげに覗き込む。

「べ、別に……何でもないわ!」

あわてて、わたしは顔を逸らす。


——や、やだっ! ど、どうして⁉︎

これまで、一滴の涙も浮かんでこなかったのに、いきなりわたしの目に(あふ)れんばかりの涙が盛り上がってきた。

いつぞやと同じく、知らないうちに「限界値」に達していたようだ。

気づかれたくないのに、鼻がムズムズしてきて自然と(はな)をスズっと啜ってしまう。

——ヤバいぃっ、泣いてるのがバレちゃうじゃんっ⁉︎


もう、パニックだ——そう思った瞬間……

いきなり茂樹の手が伸びてきて、ぐいっと引き寄せられる。

そして、気がつけばその腕の中にわたしの身体(からだ)がすっぽりと収まっていた。

それから彼は、まるで小さな子どもにでもするみたいに、わたしの背中をやさしくさすった。

——こうなると、もうダメだ……


「……ゔっ……ゔえっ……ふえっ……」

とうとう(こら)えきれなくなって、わたしの口から幼い子どものような泣き声が漏れ出した。


先刻(さっき)おまえが言ったのは……当たらずとも遠からず、だな」

茂樹はそう言いながら、大きな手のひらでゆっくりと優しくやさしく……わたしの背中をさすり続ける。


「おれは……確かに、
彩乃さまのことが好きだった。

あの(ひと)のためなら……
富多の家を出る覚悟もした」

< 182 / 188 >

この作品をシェア

pagetop