さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜

茂樹は、まるで小さな子どもにでもするみたいに、わたしの背中をやさしくさすった。

なんだか、すごく手慣れている。

——あぁ、そうか……

たぶん、幼かったわかばちゃんが夜中にぐずったときなんかに、こんなふうに(なだ)めていたのだろう。


いつもはわたしのこと、あんなにぞんさいに扱うくせに……

わたしに触れるのは、カラダが欲したときだけのくせに……

本当は、ものすごく好きな(ひと)がいるくせに……

——なんて、ズルい(ひと)なんだろう……


そう思ったら……

「……ゔっ……ゔえっ……ふえっ……」

わたしの口から、それこそ幼い子どものような泣き声が漏れ出した。


自分でも、びっくりした。

だって、こんな泣き方は……父親の前でも、実母の前でも、もちろん養母の前でもしたことがなかったからだ。

——両親が離婚したときですら、こんなふうには泣かなかったのに……

ほかのどんな人よりも、茂樹の前でこそ、こんなみっともない泣き方なんかしたくないのに。


そう思えば思うほど——

涙がどんどん溢れてきて、泣き声は止まらず、
それどころか、もっともっと大きくなる。

そして、ついに、泣きじゃくり始めてしまった。

——あぁ、もおっ、わたしの涙と(はな)水で茂樹のスウェット、ひどいことになってるっ。


だけど、そんなわたしを、茂樹はなにも言わずに抱きしめ続ける。

大きな手のひらで、ゆっくりと、優しくやさしくさすり続ける。


すると、いつの間にか……

わたしは彼の腕の中で、眠りについていた。

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