他校生
「本屋としか、言ってないのに……あの本屋に来たってそう言うことだよね?」


「……うん」


私がそう返事をすると

何とも言えない表情で私を見ると、首の後ろで手を組んで、俯き、そのまま暫く動かなかった。



どうしていいか、分からず言葉を探す。


「えっと、ごめんなさい。私は……工藤くんは覚えてないかなって」


工藤くんはバッと起き上がり、身体ごと私の方へ向けた。



「探した!俺、めちゃめちゃ探したんだからな!」


「え?何で?」


「……いや、ハンカチ……あ!」

工藤くんはリュックから、あの時のハンカチを取り出した。




私の差し出した手のひらにはいつまで経ってもハンカチが乗らずに


「あの……」

返して貰おうとハンカチに手を伸ばすと、工藤くんがヒョイっと上に上げた。

長い手の先に持って行かれては届く訳もなく、立ち上がって取ろうとするも


また、ヒョイと上にあげられ




「……あの?」

「めちゃめちゃ探した」

「うん、さっき聞いた。ハンカチ返して?」

「何でセーラー服着てるの?」

「制服だからだよ」

「あの日、違う制服だった。てか、俺と同じK高の制服でタイも1年生のカラー。なのに、いない。探しても、探しても……」

「ホラーだね」

確かに、怖いかもしれない……

「いや、本当、何だったんだって……」

「1回会っただけで、よく顔を覚えてたね」

「同じ高校なら、会えるしいっかって思って…名前もクラスも聞かなかった。幽霊でも見たのかと……」

ぶっ、とつい吹き出してしまって
咳払いで誤魔化す。


「いや、笑い事じゃねぇ」

誤魔化せてなくて、結局笑ってしまった。


「ごめんね、探してくれてありがとう」

油断してる彼からの手からハンカチを抜き取った。



「洗ったけど、毎日触ってたから、結局汚いかも」

「え?」


油断してたから、私の手からもう一度ハンカチがすり抜けた。



「N高の体育館で見かけて、あれ?ってなったんだけど……まさかって思ってて…初日に転校とか?」


「実は……紗香と制服取り替えっこしてたの。その時にたまたま……あ、傷は治った?」


無意識に工藤くんの手を見ようと
手を伸ばしてしまい、慌てて引っ込める。


「ん、ここ。ほら、よーく見ると」

「あ、薄い線があるね。地味に、痛かったよね」


そう言って、顔を上げると……


距離の近さに慌てて目を瞑る。



「目、閉じるな!」

薄く線の入った手の甲で彼が私のおでこを小突いた。






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