三月のバスで待ってる
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放課後。すでに外の部活は始まっていて、グラウンドでは野球部やサッカー部の練習風景が見える。
それを横目で眺めながら、私はさっき杏奈に言われたことを考えてみた。
せっかく誘ってくれたのだからなにかやってみたいと思う気持ちと、どうせ無理なのだから考えるだけ無駄、という諦めの気持ちが同時に渦巻く。
自由に好きなことができる人が、羨ましい。
でも、私にとっては、友達ができただけでも大きな進歩だ。あまり欲張ってはいけない、と自分に言い聞かせた。
やってきたバスに乗り、いつもの窓際の席に座った。何人か同じ学校の生徒がいるけれど、同じクラスの人はいないようでホッとした。
「発車します」という想太の声。秋の風のように落ち着いた彼の声を聞きながら、ふと、今日は話せるかな、と思った。
心配してくれたから。違う、それよりも、彼の喜ぶ顔が見たくて。
ーー今日は、いいことがありました。
いますぐにでもそう伝えたかった。
こんなにも人に何かを話したいと思ったのは、初めてかもしれなかった。