三月のバスで待ってる
4.『日常の景色』

はじまる前はあんなに憂鬱だった9月が、もうすぐ終わろうとしている。毎日続いていた暑さも徐々に落ち着いてきて、景色も秋の色に変化してきていた。

「次美術だよね。深月、美術室一緒にいこーっ」

杏奈の明るい声に、私は振り向いて「うん、行こう」と頷く。

はじめのうちは受け答えもおどおどして上手くできなかったけれど、最近は笑って答えられるくらいの余裕が出来てきた。1ヶ月でこの変化は我ながら大進歩だと思う。

「ほら、鈴村も寝てないで行くよ!」

「んあ?あー」

いつものように朝練で疲れて寝ている悠人が、まだ寝ていたそうに細目で顔をあげた。だるそうにしながら机を探って美術の教科書を出し、立ち上がって一緒に歩き出す。

その様子を見て、私はなんだか微笑ましくなる。

杏奈のアピールは恋愛にうとい私から見ても丸わかりなのに、悠人はまるで気づく気配すらない。本当に部活のことしか考えていないのだ。勉強を頑張っているのも、成績が悪いと試合に出させてもらえないからだというからすごい。

そんな2人を眺めながら、杏奈を心の中で応援する。でも、2人がもし付き合ったりしたら、私の居場所がなくなってしまうかもしれないけれど……。

と、また後ろ向きなことを考えているのに気づいて、だめだめ、と慌てて気を持ち直す。

せっかく前に進みだしたのだから、なるべく悪いことは考えないようにしよう。

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