ストロベリーキャンドル






あれから一週間。
相変わらず仁の記憶は戻らないまま。


あの冷たい仁が日常になりつつある。


会社から理解を貰えて、この一週間は定時で帰ることが出来ていた。


家に帰って仁を迎える準備をする。
仁は仕事の遅れを完璧に取り戻したのか、
いつも夜遅くまで働いてくる。


頭の包帯も取れて、見た目では何かあるようには思えないくらい回復していた。


額に出来た大きな傷跡だけは痛々しく残っているけれど。
 

病院でその後の経過を見てもらおうと言っても、
仁は聞いてくれない。


もうずっと、
仕事のことばかりで頭がいっぱいなようだった。


「仁。そんなに仕事ばかりしていたら疲れちゃうよ。
 もっと、休んだっていいのよ。
 あなたは病み上がりなんだから」


久しぶりに顔を合わせたから、思い切って話しかけてみる。


仁は立ち止まって私を見た。
いつもより、柔らかい瞳のような気がする。


今日はなんだか、話を聞いてくれそう。


「なんであんたに、
 そんなこと指図されなくちゃいけないわけ?」


言葉はいつも通り、冷たい。
でも、なんだか不思議だけれど、今日は押せる気がした。


「何度も言うけど、私は仁と結婚してるから。
 心配するんだよ」


「まだ言ってんの?
 じゃあ、また不倫でもして再婚すれば?」


「そ、そんな……仁」


「分かったよ。今の仕事が落ち着いたら、休みを取るよ。
 でも勘違いするなよ。俺は仕事を休むだけだ。
 あんたと馴れ合いごっこをするつもりはないから」


それだけ言って、仁は自室にこもる。
それだけでも、私は嬉しかった。


仁の心の奥底にある優しさが、
一瞬だけ顔を見せた瞬間だから。


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