ストロベリーキャンドル



仁の温かさに安心する。そして気付いた。
あの時外していたはずの結婚指輪を、仁はしてくれていた。


それが嬉しくて、また泣きたくなった。


神様は奇跡を与えてくれた。
長いように思えたけれど、こんなに早く仁が戻って来た。


あの離婚届にサインをしなくて本当に良かったと思う。


もう、大丈夫。
私たちには、幸せが待っているから。









妙に、寝心地のいい夜だった。
それは隣に仁がいてくれるから?
久しぶりに一緒に寝られたことに嬉しさを覚えたから?


分からないけれど、とにかく心地よくて、目覚めたくないと思った。
そう思ったからなのか、体が思うように動かない。


誰かが髪の毛を優しく触っている。


仁?仁なの?






「ごめんな、奏音」




えっ?何で謝るの?仁?
あっ、待って、熱が離れていく。


待って、待って。
行かないで。


私、まだ眠くてしょうがないの。
起きるから、
今起きるから待っていて。


仁……。





「はっ」


目が覚めた。
体を起こすと、少し暑苦しかった。


暑いのに、何故かひやっと震えるほどに寒さを感じる。
隣を見ると、そこに仁はいなかった。


もう起きたのかな?と思って寝室を出て、リビングに行く。
そこにも仁はいなかった。


部屋にいるかな?……いない。
どこかに行ったの?
でも、こんな朝早くに?



嫌な予感がして、すぐに着替えて財布と携帯を持つ。
マンションを飛び出して、走った。


どこに行ったの?仁。
あの「ごめんな」って、
もしかしたら本当に仁が言っていたの?


夢ではなかったの?
ごめんって、何?














いなくなるけど、ごめん?












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