猫娘とおソバ屋さんで働いています
 気まずくなって私はみさきくんから目をそらす。
 また沈黙。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「あ、あのね」
 我慢できずに私は口を開く。
「もしかして怒ってる?」
「怒ってませんよ」
 そう答える割に目つきは鋭い。
 あと言い方もぶっきらぼうだ。
「相手があおいさんですから、そんなに怒ったりしません。可愛いって思ってくれるってことは俺のことそれだけ気に入ってくれてるってことですもんね」
「あ、うん」
「俺もあおいさんのこと……」
 頬を朱に染めながらみさきくんが言いかけたとき、ポップな曲調の電子音が流れた。
 みさきくんのスマホからだ。
 みさきくんが画面へと目を落とし、すぐにズボンのポケットに仕舞う。
 何だか様子が変だ。
「みさきくん、どうしたの?」
「あ、いえ。大したことないです」
 大家さんがたずねた。
「お姉さんから?」
「ええ、まあ」
 歯切れが悪い。
 というか、今の電話に出ずに切っちゃったんじゃ……。
 私は聞いてみた。
「電話だよね? 出なくてよかったの?」
「いいんです。どうせ内容はわかってますから」
「彼女、地味にしつこいよね」
「心配性なだけです。俺絡みですし」
「君も苦労しているよね」
 これにはみさきくんは応えなかった。
 電話をきっかけに何となく私たちは無言になる。みさきくんが何かを言おうとしていたようではあるが、言葉は彼の喉の奥に引っかかったらしく出てこない。
 やがて、大家さんが終了の合図のようにこう言った。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「そ……そうですね」
 ぎこちなく返すみさきくん。
 どこかほっとした感じの声音。どうやらみさきくんは言いかけた言葉を飲み込むことにしたようだ。
 それが何だったのか気にはなったが私は追求しないことにした。
 代わりにこうたずねる。
「どこに行くんですか?」
 我ながら無遠慮な質問だったかもしれない。
 けれど、気になったのだから仕方ないよね。
 大家さんが答えた。
「僕の持ってるアパートの一つにみさきくんのお姉さんの旦那さんが住んでいてね、彼に頼ってみようってことになったんだ」
「住んでるって、あれ? みさきくんのお姉さんってお婿さんをもらったんですよね?」
 前にみさきくんから聞いた情報だ。
 アパートにってことは……別居?
 それとも離婚?
 ……はないか。
「元・旦那」じゃなかったし。
「言っておくけど離婚とかじゃないからね」
「あっはい」
 大家さんに心を読まれた気がして私は頓狂な声を発してしまう。
「ちょっと事情がありまして、姉と離れて暮らしているんです」
 と、みさきくん。
「いっそ別れてくれればすっきりするんですけど。俺も結婚さえされなければ諦めたりしなかったんですけどね」
「そうなんだ……ん?」
 え?
 今、おかしなこと言わなかった?
 急に胸がドキドキしてくる。
 無意識のうちにもわんと頭の中で姉弟の禁断の恋が映し出される。
 ただし、みさきくんの相手の顔は適当だ。
 お姉さんの姿って知らないし。
「……」
「青山さん、よだれよだれ」
「はっ!」
 大家さんに指摘され妄想から戻ってきたときみさきくんがなぜかものすごい冷たさの目をしていたんだけど……ばれてる?
 
 
 
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