美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
ボケとツッコミを繰り返す穂積と橋沼を尻目に、自分の世界に閉じ籠りつつあった瑠花だが、

「三神主任、君の言っていたオーガニックシャンプーの香り付け、君が一番安心できる香りは何だと思う?」

意表を突いた穂積の言葉に我に返った。

「私が、ですか・・・?しかし、個人の意見をもとに考えを巡らすと、思い込みからよい商品が出来なくなってしまうと・・・」

「今、君は追い詰められ過ぎて、自分の想いから頑なに離れようと意固地になっているように見える」

率直な穂積の意見には真実が含まれていて、瑠花は否定すらできずに唇を噛んだ。

「自分が心地よい、使いたいヘアケア商品でなければ誰も欲しがらない。だったら、自分の好きなものの中から選んでいくのも一つの手ではないのか?」

穂積に言われて気づいた。

狭間や但馬は、頑なに

゛自分の嗜好゛

に惑わされずに、万人受けするような商品を作るよう、瑠花を先導してきた。

これまでは、そのやり方で乗り切ることが出来ていた。

しかし、このところは、自分の中で生じた矛盾を飲み込めずに悩んでいた。

゛好かれたい、望まれたい゛

いい商品を作ろうと、そんな想いに捕らわれ、瑠花の゛好き゛の感情は置いてけぼりになっていたのかもしれない。

だからこそ悩み、抜け出せない闇の中蠢いていた。

穂積は、瑠花が心地よいものを消費者に提供してもよいのだと肯定してくれていた。

「好きにやってみろ。納得いくまで。俺が責任を取ってやる」

この力強くてどこまでも俺様な穂積の言葉から、瑠花は、決して、狭間や但馬からは感じることのできなかった上司としての頼りがいを感じた。

「ありがとうございます」

瑠花ははにかんだ笑顔を称えて、穂積に向き合った。
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