初恋エモ


クノさんが新たなバンドを組んだことは、教室でも話題になっていた。

私はなぜか口止めされているため、知らないふりをしたけれど。


「聞いた? クノさんライブするんだって!」

「うちも誘われた。超楽しみ!」


穂波さんたちはライブに来るらしい。少しビビる。


体育祭以降、穂波さんからは一定の距離を置かれている。

休み時間はいつもイヤホンで音楽を聴いているせいか、他のクラスメイトから話しかけられることもほとんどない。


教室では一人。

寂しいけれど、翠さんやミハラさんという友達ができた。だから大丈夫。


そう思ったけれど。


「間宮さん、文化祭委員やってくれるって本当?」


突然、クラスの女子にそう話しかけられ、びっくりした。


「え。私、立候補してないけど」

「間宮さんがやってくれるって、ラインで回ってきたよ」


無理だ。ただでさえ放課後は時間が惜しいのに。絶対にできない。


クラスのグループラインは通知オフにしたまま。

こまめにチェックしなかったことを後悔した。


「うわぁ……」


慌ててメッセージをさかのぼる。

穂波さんの発言により、私に係が押し付けられる形になっていた。


『すみません、バイトや家のことがあるので無理です』


そうメッセージを送っておいた。


「まじで? やってくれるって言ったじゃん。今さら誰がやんの? 最悪」


昼休み、穂波さんの声が教室に響き渡った。

クラスメイトたちもざわざわし始める。


「…………」


気まずくなり、教室を飛び出す。

急いでイヤホンを取り出し、音楽で耳を塞いだ。


< 77 / 183 >

この作品をシェア

pagetop