初恋エモ





クノさんを知ったのは、中3の秋のことだった。

友達のお兄さんが隣町のライブハウスに出ることになり、友達が音楽好きな私を連れて行ってくれた。


その日は高校生バンドがたくさん出るイベントだった。

上手いバンドから緊張しているバンドまで、みんなキラキラしていた。

フロアにいるお客さんもバンドメンバーの友達が多いのか、みんなキャーキャー騒いでいて、お祭りみたいな雰囲気。

私も友達と一緒に手拍子をしながらライブを楽しんでいた。


その中で、彼は異質な存在だった。


クノくーん! ミハラくーん! 等と友達らしき女子たちがステージに向かってメンバーの名前を呼んでいる。

しかし、クノと呼ばれていた彼は、笑みを浮かべていたかと思えば、急に挑発的な目線をフロアに向けた。


一瞬、目が合ったような気がした。体がぞくっと震えた。


空間をつんざくような激しいギターを鳴らし、彼はマイクへ近づく。


「……っ」


歌声が発された時、なぜか涙が出そうになった。


優しげな低音から、かすれ気味の高音へ。

演奏に埋もれがちな他バンドのボーカルとは違っていて、直接心に突き刺さってくるような歌声。

声の質の良さもあるとは思う。

でも、それだけじゃない。時に苦しくて、時に温かい。


初めてだった。

心をつかまれて、感情を揺さぶられるような。そんな感覚になったのは。


初々しさを感じるベースやドラムを気にも留めず、手元では鋭いギター音を鳴らし続ける。

頭を振り、全身で音に乗っているものの、ギターの演奏も安定してて、抜群に上手かった。

有名バンドのコピーだったのに、原曲を丸ごと飲みこみ彼自身の曲になっているように思えるほど。


まわりの女子たちはキャーキャー楽しそうにライブを見ていたけれど、私は手拍子なんか忘れて彼にくぎ付けになっていた。


ライブが終わった瞬間、全身が脱力感に包まれた。

エネルギーが吸い取られたような感じ。でも、その感覚が不思議と気持ちが良かった。


友達のお兄さんいわく、U北高校のバンドとのこと。

(ちなみに友達のお兄さんは、バンドをやってもモテなかったという理由で、もうバンドはやっていないという)

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