初恋エモ
☆
「あははっ、クノくん割と不器用そうだからね~」
スネアドラムを調整している葉山さんはそう言って笑った。
私もベースをアンプにつなぎ、チューニングを確認する。
「クノさんかなりのモテ男ですよ。なのに不器用って……」
「いくら想ってても、一緒にいてあげないと不安になるものじゃん。女の子って」
なるほど、確かにその点をクノさんはクリアできていない。
葉山さんの意見に妙に納得してしまった。
さすが私たちより人生経験が豊富なだけある。
スタジオに入るたびにクノさんにびしばし指摘されるため、今日は葉山さんと二人で特訓をすることに。
ちなみに二人だと個人練習料金が適用さるため、スタジオ代は安くなる。財布にも優しいぞ。
「準備できました。お願いします」
「はーい。やりましょー。ワンツー!」
葉山さんの合図により練習スタート。
時々それぞれの練習をはさみながら、曲を何度も合わせた。
繰り返すたびに、よりクノさんの曲に近づけている感じがした。
きっと葉山さんのドラムのおかげだ。
どんなに早いリズムでも雑になることはなく、一音一音の粒がはっきりと聞こえる。
力強いバスドラムが、自分のベースの低音と合わさり、足元からびりびり音が響く感じが気持ちいい。
おかげで体でリズムを取りやすく、ノリがつかみやすい。
とはいえ私はまだまだ未熟のため、弦を押さえる左手が追いつかなくなるけれど。
「うーん間奏のドラム、ちょっと変えようかな~」
葉山さんはそう言って、シンバル多めの変則的なビートを刻んだ。
「おおお、かっこいいです、それ!」
「でもクノくんの意図とは違う気がする」
スティックで空中を叩きながら、葉山さんは悩み始めた。