初恋エモ





「あははっ、クノくん割と不器用そうだからね~」


スネアドラムを調整している葉山さんはそう言って笑った。

私もベースをアンプにつなぎ、チューニングを確認する。


「クノさんかなりのモテ男ですよ。なのに不器用って……」

「いくら想ってても、一緒にいてあげないと不安になるものじゃん。女の子って」


なるほど、確かにその点をクノさんはクリアできていない。


葉山さんの意見に妙に納得してしまった。

さすが私たちより人生経験が豊富なだけある。


スタジオに入るたびにクノさんにびしばし指摘されるため、今日は葉山さんと二人で特訓をすることに。

ちなみに二人だと個人練習料金が適用さるため、スタジオ代は安くなる。財布にも優しいぞ。


「準備できました。お願いします」

「はーい。やりましょー。ワンツー!」


葉山さんの合図により練習スタート。


時々それぞれの練習をはさみながら、曲を何度も合わせた。

繰り返すたびに、よりクノさんの曲に近づけている感じがした。


きっと葉山さんのドラムのおかげだ。


どんなに早いリズムでも雑になることはなく、一音一音の粒がはっきりと聞こえる。

力強いバスドラムが、自分のベースの低音と合わさり、足元からびりびり音が響く感じが気持ちいい。


おかげで体でリズムを取りやすく、ノリがつかみやすい。


とはいえ私はまだまだ未熟のため、弦を押さえる左手が追いつかなくなるけれど。


「うーん間奏のドラム、ちょっと変えようかな~」


葉山さんはそう言って、シンバル多めの変則的なビートを刻んだ。


「おおお、かっこいいです、それ!」

「でもクノくんの意図とは違う気がする」


スティックで空中を叩きながら、葉山さんは悩み始めた。

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