蛍火に揺れる
そうか、彼は…こんなにも逞しくて大きかったのか。

今まで意識せずに…
いや、ずっと意識しないようにしていたけれど、はっきりと思い知らされる。


「幸せにします、伊藤さん」

そう言いながら、ゆっくりと腕を解く。
その顔はすごく逞しいくて…自信があるのか、自分に言い聞かせているのか。ともかく私を安心させようとすごく一生懸命なのが伝わってくる。


―あぁ、これは…負けた、な。


「江浪君……あの、名前…」

「名前?」

「名字じゃなくていい」

一瞬困った顔を見せるけれど、それはすぐに笑顔に変わる。


「うんと……じゃぁ、沙絵ちゃんでいい?」


彼が見せる笑顔は、にっこりと目尻が下がる、優しさに溢れた笑顔。

あぁそうか。


私はこの笑顔に…陥落したんだ。

一点の曇りもない、この屈託のない笑顔に。



もう一度「沙絵ちゃん」と愛おしそうに呟くと、さっきよりも強く、強く抱き締める。
抱き締められる腕は、ほんの少しだけ震えていて……それがますます、私に愛おしさが芽生えていく。


あぁ、そうか。
私はずっとこんな風に―愛されたかったんだ。


私はずっと彼を待っていたのかもしれない。
なんて彼の腕の中で、そんなことを考えていた。


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