水曜日は図書室で
 あかりはしばらくだまっていた。周りにいた子たちもちょっと張りつめた様子で見守っている。
 やがて手を出した。美久の手から、袋をひょいっと取ってくれる。
「ありがと」
 言われたのはそれだけ。すぐにさっさと「ね! 部活、行こ」とほかの子のほうへ行ってしまった。
 でも美久はほっとした。美久だけでなく、周りの子たちも同じだろう。その場の空気がゆるむ。
 周りにいたあかりと仲のいい子たちにも「良かったら」と渡していきながら、美久はほんのりあたたかいような気持ちを感じていた。
 ただの友チョコだけど。
 あかりが少なくともクラスメイトとしては、うまくやろうとしている、と言ってくれたように感じられたから。
 そのあとは、あっけないほどに教室からはひとがいなくなっていった。
 それはそうだろう、みんな『用事』があるだろうから。
 彼氏がいる子はデートがあるだろうし、片想いの子は……あるだろう、告白とか。そういうものが。
 つまり、みんな『好きなひと』に会うのである。
 恋の行方がどうなるかはわからないし、それぞれであろうけれど、とても素敵な時間だと美久は思った。
 ただチョコレートが行き交うだけではない。
 行き来するのはもっと大切な『優しい気持ち』だ。
 そして美久がその『優しい気持ち』をあげたいひと。
「お待たせ」
 こんこん、と、教室の開いていたドアが叩かれる。そこに立っていたのはもちろん。
「快くん!」
 帰り支度をすっかり整えた、快であった。
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