水曜日は図書室で
 どくっと心臓が跳ねて、そのままばくばくと速くなってしまう。
 どうしたらいいかなど、わからなかった。理屈としてはわかっても、こんな場面に初めて直面すれば。
 なにも反応できなかったけれど。
 美久が嫌だと思わなかったのは伝わってくれたのだろう。快の瞳は固いまま、でもふっとゆるんだ。まつげが落ちて、その優しい瞳が隠される。
 そして次のことは一瞬だった。
 くちびるにやわらかなものが触れる。
 まるでまだ早すぎる春風になでられたようにあたたかかった。
 そしてふわっと漂ったのは、チョコレートの甘い香り。
 甘い春の風は、一瞬で過ぎてしまった。
 そっと顔を引かれて、美久はまだばくばくと速い心臓を抱えたまま、間近の快の瞳を見つめるしかできなかった。
 快の瞳はまだ固かった。それはそうだろう、快だって緊張しないはずがないから。
 快の手が動く。美久の前髪に触れた。
 すぐにわかった。そこにつけているのは、金色の星のついたヘアピン。
 今日にふさわしいと思ってつけてきたものだ。気付いてくれたらしい。
 そのとおり、快は愛おしそうにそれを見つめて、軽く髪を撫でてくれた。
 それから手は移動する。さっきと同じように頬へ。
 優しく撫でられた。大きな手がやわらかく美久の頬を包み込む。
「美久が好きだ。優しいところも、強いところも、全部」
 あまりに嬉しいその言葉。
 初めて交わしたキスも。
「……うん」
 夢を見ているような気持ちで美久はただ答えた。ありがとう、と言葉にすることも思いつかないくらい、目の前の快でいっぱいだった。
「だから、その勇気。分けてもらったから、俺も頑張れる」
 それは決意だった。
 快の瞳。
 その奥にははっきりと、強い決意が宿っていた。
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