水曜日は図書室で
 隣から美久に飛びついてきた子がいた。それは留依。一緒にドッジボールに参加していたのだ。
「綾織さん、すごいじゃん!」
 パスを投げてきた子もやってきて、逆から肩をたたいてくれる。
 その子がパスを投げてくれたのは、敵チームを狙うのに、美久が一番いい位置にいたからだ。
 けれど前までの美久にだったら、その子はパスを投げてくれなかっただろう。美久が受け取れないと思うのではなく、受け取る気構えができないだろうと思っただろうから。
 でも信じてくれた。
 それはその子が優しかったのもあるけれど、自分が変わったことで得ることができた信頼でもあるはず。
 今の美久なら、はっきりそう思える自信がついていた。
 ふと、視線をコートの外に向けると、見ている生徒たちの中に、快がいるのが見えた。
 美久が快に気付いた、と向こうも気付いてくれると、その瞳がふっとゆるんだ。音は聞こえないけれど、ぱちぱちと手をたたいてくれる。
 美久の心がかぁっと熱くなった。
 見ていてくれたのだ。自分のプレイを。格好良くできたところを。
 誇らしかった。
 にこっと笑う。ぐっとこぶしを握って、ちょっと持ち上げた。
 それだけ。
 でも快は同じように、にっと笑って、同じしぐさをしてくれたのだった。
「ほら美久! まだ時間あるよ!」
 留依に呼ばれて、美久はコートに向き直った。
 プレイ時間はあと五分ほどだろうか。このまま持ちこたえれば、美久たちのチームの勝ちとなる。気は抜けない。
 美久の意識はすぐに試合に集中していった。
 その様子を快が優しい目で見つめている。
 立って見てくれていた快が制服姿であった、意味。
 美久はなんとなく、わかるような気がしていた。
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