水曜日は図書室で
 美久は息を飲んだ。快の言葉には、強い決意と気持ちがこもっているのがわかったから。
 そして、自分がどうするかは自分が決める、と言ってのける彼がどんなに強いかということも。
 なにか抱えているものがあっても、それでも自分で切り開いていく、という気持ち。
「だから、したいことはするし……、仲良くなりたいと思ったら諦めるわけないし」
 不意に話題が違うほうへ行った。美久はきょとんとしてしまう。
 仲良くなりたい、というのはいい。実際、自分と親しくなっていって、仲良くしてしてくれてきたのは確かなのだから。
 でも『諦める』というのは。
 その意味が美久にはよくわからなかった。
 美久に伝わっていないのは快もわかっただろう。
 ふっと笑った。固かった瞳が優しい色になる。
 そっと手を伸ばされた。
 膝にかけた、快のジャケット。その上に置いていた美久の手に触れられる。
 きゅっと握られて、美久の心臓がどきりと跳ねた。
 こんな近くで見つめられた上に、手にまで触れられたら。
 快の手はあたたかかった。しっかりと厚くて、固くて、男のひとの手をしている快の手。
 どくどくと心臓がうるさく騒ぐ。息苦しくなってきた。
 こんな空気、美久は知らなかった。
 でも、第三者としては知っている。すなわち、マンガやドラマなんかで見るような状況。
 思い描いたとたん、頭の中が煮え立つと思った。顔も真っ赤になったに違いない。
 まさか、なにか、そういう……恋愛的なことが。
 美久の反応は良いように取られたのだろう。もう一度、きゅっと手を握られた。
「俺は、綾織さんともっと仲良くなりたい」
 静かに言われた。どくどくと心臓を高鳴らせながら、美久はそれを聞くしかない。
 見つめた先の快の瞳が閉じられた。すぐに開かれて、まっすぐに見つめられた。

「綾織さんが好きだ。もっと知っていきたい」
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