海辺に舞った一枚の落ち葉
「必ずお護り致します」
 例え、舞い散る落ち葉の如くこの命散らそうとも。


 上弦の月は海中へと没し、闇の中潮騒だけが聞こえる。前王から託された小さな命を抱え、私は波打ち際を走っていた。
 今頃、謀反人共は一時の勝利に酔いしれている事だろう。夜が明ければ、首謀者である前王の叔父が王位後継者の姫を手に掛け、自らの地位を確たるものとしてしまう。
『どうか、成人するまでこの子を護って欲しい』
 少年の姿をした五歳の少女を腕から下ろし、お尋ね者だった頃の愛船を草陰から引き出す。この日の為、事前に整備済みだ。
「……ねえ、リフは、私の味方?」
 震える声で姫が尋ねた。ロイヤルブルーの瞳に滲む涙が、灯したカンテラの明かりに煌めいた。
 私は砂の上に跪き、右手を胸に当てて一礼した。
「勿論でございます、王女様」
 五年前、命を救ってくれた幼き姫に忠誠を誓う。
「何があろうと、貴女様だけは必ずお護り致します」

 戴冠の日を迎えるまで、姫は私の故郷でひっそりと暮らした。後から合流した王室の世話係と乳母が、宮廷作法や王族の心得を姫に叩き込んだ。
 私はお堅い世話係の目を盗んでは、姫を街に連れ出した。いずれ為政者となる姫に、民の暮しを直に見て欲しかった。
 漁船に乗った。花売りもした。物乞いをする貧しい人に涙した。沢山の人に出会い、愛され、姫は聡明で美しい女性に成長していった。
 そして人知れず、私の胸中には君主に対する忠誠以上の感情が生まれ、育っていた。

 時は流れ、戴冠の日が来た。
 下弦の月は山頂から姿を現し、寄せる波を淡く縁取る。迎えの船が近付いて来た時、姫は私に尋ねた。
「リフはずっと、私の味方で居てくれますか」
 私は砂の上に跪き、右手を胸に当てて頷いた。
「リフ・アルバ、誓って」
 姫は私に手を差し出した。私は顔を上げ、その細い手を握る。
 姫の瞳は、あの時とは違う涙で濡れていた。
 王都へ旅立った姫を見送った後、私は愛船に乗り込んだ。
『事故に見せかけて姫の船を海上で爆破する計画がある』
 全財産と交換に、昔の荒くれ仲間から得た敵の情報。
『貴女様だけは必ずお護り致します』
 さあ、あの時の誓いを果たそう。
 標的を目指し、全速力で波間を駆ける。情報通りの位置で敵影を視認し、私は迷う事無くその腹目掛けて突進した。船に乗せた大量の爆薬と共に。伝える事の叶わなかった想いを胸に。


 歴史の海に舞った落ち葉は、静かに海底へと沈んで行った。
 愛する人の記憶に鮮やかな色を残して――


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