伝えたい。あなたに。"second story"

久しぶりの家

次の日。



結局外泊許可が出ることになった、看護師さんがついてくれるのを条件に。



どうやらその看護師さんはお母さんの知り合いらしい。もちろん横には母もいる。



そしてなぜか、私服姿の山瀬先生がいる。



『じゃあいきましょうか。』



遠足でもいくような雰囲気に懐かしさを覚えた。



『お母さん、どこいくの?』



『いいから、行きましょう。』



車で揺られること30分、自宅についた。



夜勤明けの山瀬先生は車で爆睡していて、違う一面を見た気がした。



無駄に広い庭の先に家がある。
微妙な坂が病み上がりの人間には少ししんどい。
母と友達らしい看護師さんはせかせかと歩っていく。



そして、



『ゆうか、危ないから。』



そういって手を差し出す山瀬先生が眩しかった。



私って夢見がち??






久しぶりに入った自分の部屋は、何も変わってなかった。何故かそこには山瀬先生がいて。



『もっとお子ちゃま向けのものが置いてあるかと思ったのに、普通な部屋だね。』



失礼な、どこまで子供扱いなんだろう。



『というか、なんで入ってきてるの!』



『だってお母さんが急かすから、ちゃちゃっとしか診察してないでしょ?』



せっかく帰ってきたのに、これでは病院となんら変わりない。むすっとして、大人しく椅子に座る。



『先生今日帰らないの?』



『早く帰って欲しいの?』



あからさまに、寂しそうな顔をする。



『いや、別に。』



『別にって何さ、どうでもいいみたいな。』



そう言いながら診察の準備をしている。



コンコンッ



『どうぞー。』



私の部屋なのに勝手に返事をする山瀬先生。




『山瀬先生、お部屋準備できたのでいつでもどうぞー。』



お母さんだ。



『えっ泊まるの?』



とっさに聞く。



『そうよ、いいじゃないの。ゆうかも安心でしょ。』



いやいやいやいや。



『お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えて。』



『甘えないでよ!』



『ゆうかそんな冷たいこと言わないの、お世話になってるんだから。』



いつもは白衣をきて、患者と医者の関係なのに、突然同じ家に泊まるなんて。



『これが外泊の条件なんだから飲んでもらわないとね。』



なんて条件を引き受けたのだろううちの母は。
母から提案した可能性もある。
家での聴診は変な感じがする。



看護師さんもいない。
これは場合によっては危険な状況かもしれない。



『あっ!』



『びっくりした、どうしたの、急に。』



『いや、なんでもない。』



不思議そうに見つめられる。



『なんでもないから続けて。』



『後ろ向いて』



このイスじゃ後ろ向けない。



『先生の膝に乗る?』



おふざけも程々にしてほしい。



『医療と私情を混同しないで。』



『はははっ、、医療と私情か。俺にとっては同じようなもんだわ。ゆうかに対してはね。ほら、早くして』



本気で膝に乗せようとしてるのだろうか。
そんなの恥ずかしすぎて無理。



『いや!膝には乗らない!』



『膝に乗れなんて言ってないじゃん、普通に後ろ向いてくれればいいよ。膝に乗りたいの?』



『さっき言ってたじゃん。』



『聞いただけで、乗れって言ったわけじゃない。』



揚げ足をとられた。
こういうタイプだったか!



『顔真っ赤、熱あるんじゃないの?』



『ないもん!』



『騒がないの、病み上がりなんだから。』



『先生のせいだ!』



椅子から立ち上がって離れる。



こんなに騒がしい診察が今まであっただろうか。
先生も立ち上がって近づいてくる。



『こないで!』


ベッドの奥に逃げる。
すると、山瀬先生はベッドを叩きながら、



『おいで。』



と言った。



『ふざけないで!もう最悪!』



ベッドの影に隠れる。



『いや、普通にぶつけたところ見るだけだって、なんもしません。』



もう何もかも恥ずかしい。



耳を塞ぐ。



『ゆうかね、耐性なさすぎだし、もう少し俺を信じてくれる?』



『いや!先生は俺って言わない。先生って言って。』



『先生は!ゆうかを普通に診察します。』



『それならいい。』



『本当に子供だな。』



その通りかもしれない。



子供っぽいと言われるのは、こういう部分もあるのかもしれない。言葉の通り、普通の診察だった。



『暴れてるから少し喘鳴が出てるよ。今日薬飲んでから寝よう。』



『うん、わかった。』



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