伝えたい。あなたに。"second story"

危険な人影

『そうだ、今日買い物行こうよ。』



一週間の間、一人で外に出ることを禁じられた私は、家に料理キットが届くサービスを利用していた。



案外安いなとは思ったけれど、そろそろ自分で買い物にいきたい。



『いいよ、一緒に行こう。』



先生とお買い物なんて、コンビニデート以来だろうか。何を着て行こうか迷う。



今日は私にとって小さなイベントになるような気がするから。いつまでも迷ってるのを見ている泰志さんがいう。


『おしゃれするのもいいけど、体を冷やさない格好ね。』



言われなくてもわかってるよ。
身体はいつ何時も冷やしちゃいけないと、看護師さんにも言われてた。


床に倒れ込んでた頃を思い出すと、偉そうなことは言えないけれど。


『わかってるって。』


身支度を終えて、玄関を出る。
歩き出そうとすると、すっと、手が伸びてきた。
何も言わずにその手を握る。


冷たい私の手に対して、とっても暖かかった。
氷で滑りそうな時はグッと引き寄せてくれる。
そんな存在は私にとって初めてだった。


幸せだな、私。


『ぼーっと歩いてると、転ぶよ。』


そう言われてハッとする。


『ぼーっとしてないもん。』


『ぼーっとしてる顔はいままで何度も見てきた、わかるんだからな。』


なんだか恥ずかしい。


握る力を強める。
すると、前から早歩きで近づいてくる人が見えた、


狭い歩道だったために、少しはじによって歩く。
すれ違おうとした時。


ドンッ、、



『いった、なに、、』


『大丈夫?』


わざとだ。


狭くて当たったんじゃない。
それと同時に、左腕に鋭い痛みを感じた。


違和感を感じ、腕に触れる。
その手には、真っ赤な血がついた。


え.....


どういうこと....


『なんだ?』


恐怖を感じて、足が震える。


『大丈夫、大丈夫。今、警察呼ぶから。』


泰志さんがすぐに電話をかける。
私は持っていたハンカチで腕を押さえた。


どんどん血が流れるのがわかる。
目に涙が浮かぶ。


痛みと恐怖で。
そのとき、ふとあの日のことを思い出した。


これって、あの人じゃないかと。
溢れ出る涙が増えて、服を濡らす。


鼓動が速くなる。


ドクッドクッドクッ


『ゆうか、大丈夫だよ。』


出血した腕を強く押さえられる。


『い...ったい...』


『我慢して』


数分もしないうちにサイレンが聞こえてきた。


サイレンの音が体に響いて辛い。


『大丈夫ですか?今救急車きますので。』


『はい。』


本人から事情は聞けないと察したのか、私には話しかけてこなかった。


『刃物か何かで切られたんだと思います。すれ違いざまに。』



『犯人の衣服はわかりますか?』


『黒のロングコートに、カーキ色のズボン、マスクをしていました。』


『わかりました、周囲捜索します。』


次第にもう一つのサイレンが聞こえてきた。


痛みを逃すのに呼吸が荒くなる。


『ゆうか、ゆっくり息して、すぐ病院行こうね。』


.............



『大丈夫ですか』


救急隊の人に声をかけられる。


『意識はあります、刃物で数センチにわたり切創、持病は寛解の白血病と喘息。』


『わかりました、医療関係の方ですか?』


『医者です。』


『中で処置していただけますか。』


『同乗します。』


.......

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