ねえ、理解不能【完】






再び沈黙が私とゆうのあいだに流れる。




今度は耐えきれなくなって途中で俯いたら、ゆうが動く気配がした。



私の方に近づいてくるのかと思ってすこし肩がこわばってしまう。やっぱり、わずかな恐怖がこころの中に棲み着いたままでいるようで、そのことにも切なさを感じてしまう。



だけど予想とは違って、ゆうが向かったのは後ろの扉のほうで。


もう、話はすんだのだと悟る。

本当にただ、ゆうは私の顔を見て謝りたかっただけなんだ。




離れていくゆうの姿を目で追いつつ、伝えたりない言葉をがんばって探してみたけれど見つからなくて、言いたいことなんてもうないのだと、認めざるを得なかった。




ゆうは扉を開ける前にもう一度私の方を振り返って、今度は前みたいな爽やかな笑顔を浮かべた。

本当はそれも無理してるって気づいたけれど、気づいていないふりをするべきだ、と思って爽やかさだけをすくい取る。





「ーー白崎、今日来てくれてありがとうな。あと、いままでもありがとう」

「……うん、」

「無理矢理して傷つけてごめん。……恋、教えられなくて、ごめん。いっぱい、ごめん」

「う、ん」



ゆうが扉に手をかける。そのまま出ていくと思ったら、一度動きをとめて、小さく呟いた。




「ーー青、好きだった」



ゆうはもう私の方を見ることはなくて、聞こえないふりをすることもできたけれど、鼓膜に切なく届いたその声に、私はぎゅっと手のひらに力を入れる。



「川瀬くん、ありがとう、それと、ごめんね」



もう下の名前では呼ばない。
好きだった、なんて情けでも気休めでも私から返すことはできない。






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