彼女は実は男で溺愛で

「あの」

 見上げると、目が合った。
 すると口元を手で覆った彼は、視線を外す。

「ごめん。縋るように見ないで」

「縋っているつもりじゃ」

「帰ろう。明日、今日の惨事が起きた理由を話すから」

「惨事」

「今は思い出さなくていいよ。できれば、俺だけを思い出して眠って」

 甘く囁くような声色に、顔が熱くなる。

「本当、心配だよ。顔をすぐに赤くさせて」

「染谷さんが、変な発言するからです」

 不平を漏らすと、彼は苦笑する。

「もう隠す必要ないからね」

「隠すって、あ、いえ、はい」

 彼が私を好き?
 現実味が無くて、実感が全く湧かない。
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