彼女は実は男で溺愛で
女のままで

 それからの日々は、仕事にのめり込むように集中した。
 悠里さんからは『染谷さん』として、仕事の依頼はメールで送られてきた。

 職場へは男性の姿で来ているはずで、あんなお願いはなんの意味もないのはわかっているのに。

 せめてプライベートの彼を、誰の目にも映してほしくなかった。

 お昼に一度、村岡さんに「染谷くんと喧嘩でもしたの?」と指摘されたけれど「いえ。そういうわけでは」と答えてから聞かれなくなった。

 私はまだまだ仕事を覚えなければいけない時期で、恋愛にうつつを抜かしていてはダメだと言われているような気がした。

 連休が明けのは木曜日からで、週末は数日で来た。
 金曜の夕方、『悠里さん』から『明日、買い物デートに行きましょう』とメールが来た。

 久しぶりに『悠里さん』に会えるのに、どこか気持ちは晴れない。

 待ち合わせをしたのは、一度待ち合わせたことのあるコーヒーショップ。
 ガラス張りのカウンターで、女性の悠里さんを見つけた。

 カーディガンを肩にかけている様が、とてもよく似合っていて、モデルみたいだと改めて思った。
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