彼女は実は男で溺愛で

 心の中でため息を吐き、言われた通り村岡さんにお伺いを立てる。

「来客者名簿の入力方法を、教えていただけませんか」

 隣に座る村岡さんは目線だけ一瞬こちらに向け、すぐに視線をパソコンの画面に戻して口を開く。

「手が空いたら声をかけるから」

「はい。お願いします」

 抑揚のない声で対応され、萎縮する。
 真面目でいい人だとは思う。
 けれど、どうしても近寄りがたい。

「ああ、それと。教育担当は私だから。異論があるのなら、課長に担当を変えてもらって」

 平坦なトーンで言われ、「すみません」と小さく謝った。

 お昼になると華やかな人たちは華やかな人たちで、外へランチに行くようだ。

 いいなあ。
 同僚と恋話をするのが、夢だったんだけどな。
 ぼんやり思いながら、席でお弁当を広げた。

 村岡さんは隣の席だけれど、お昼になるとどこかへ消えてしまう。

 ポツンと1人。
 寂しさに押し潰されそうになる。

 仕事って、社会人って、難しいなあ。
 短大は女の子ばかりで、楽しかった。
 後ろ向きな気持ちばかりが浮かんで、頬を叩く。

 仕事をしに来ているんだから。
 頑張らないと。

 自分を鼓舞し、冷たいお弁当を頬張った。
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